グーテンベルクの印刷術と進化する印刷メディア（2）
大阪芸術大学名誉教授
持田 総章
「42行聖書」・世界の美本
また、1版上で活字と版木を組み合わせて1度の印刷で2色刷りという機知に富んだ印刷法がある。この印刷法もグーテンベルクによるものであり、15世紀すでに行われていることに感嘆する。彼が残した印刷本の一級品と言われている「42行聖書」の装飾頭文字は木版で作られており、この装飾頭文字をレイアウトする場所を印刷枠組であけておく。あらかじめ組まれた活字に黒のインク盛りをして、別色の版である装飾頭文字、「42行聖書」の場合赤色のインクをつけた版を指定の場所におき印刷用紙をのせ、圧力をかけ刷る。このように1度の印刷で2色刷ができあがるのである。
グーテンベルクの「42行聖書」と呼ばれているものは1454年の初冬に印刷されたものと言われている。「42行聖書」は各ページともおのおの2列、42行に印刷されており世界初の活字による印刷物であり、活字は約300種で1冊の聖書にのべ335万個余の活字を使用した。活字鋳造法あっての所産であるといえる。
印刷術の伝播・マインツからの発信
グーテンベルクの発明がヨーロッパ各地に瞬く間に広がった。グーテンベルクの生存中に彼の協力者や職人たちも各所で印刷所を設立した。活字による印刷工房はマインツ周辺地域とライン河畔の都市シュトラスブルク、バンベルク、ケルン、バーゼル、アウグスブルクなどに建てられた。まさに時代の寵児ともいえる印刷職人たちはドイツにとどまらずヨーロッパ各地へ新知識を広めた。パトロンの中心となったのは教会と大学都市で初期の活字本の流通を促進した。活字印刷術は1500年までにヨーロッパ東部を除いて全域に伝わり、聖書以外に写本として受け継がれてきた著作集や英雄伝のような歴史書、ラテン語の文法書、暦書、人文書などが出版された。ヨーロッパ各地で1500年までに出版された本をラテン語の「ゆりかご」の意の由来からインクナブラ（揺監期本）と呼んでいる。
現代の状況・液晶による革命
文字による表現の液晶化は携帯電話やパソコンの画面などで当たり前のこととなった。日常においてメールによる発信･受信など頻繁で、人々の液晶画面に対峙しない日はないと言ってよいだろう。たしかに生活のなかで情報の多くはテレビやパソコンによって得る時代である。人々の活字離れについて新聞各社の本紙の発行部数の減少など伝え聞き、マンションのボックスを注意してみると新聞を定期購読していない家庭の多いことに気づく。一方、印刷の現実に眼を向けると、印刷に着手する前の製版の段階にパソコンが登場して、ハンドワークによるプロセスを皆無にしてしまうという大変革があった。今や、かつての印刷の現場を支えた製版技師の存在は無い。グーテンベルク以後の第二の印刷革命といえよう。